不動産契約の落とし穴―「分かっているつもり」が一番危ない理由―
長く不動産業に携わっていると、ある共通した場面に何度も出会います。
それは契約前の説明のときに、
「もう何件も契約していますから、大丈夫ですよ」と言われるケースです。
経験があることは素晴らしいことですし、自信を持って臨まれる姿勢も決して悪いことではありません。
しかし不思議なことに、そうおっしゃる方ほど、契約直前や退去時になって
「それは聞いていない」
「そんな条件でしたか?」
と驚かれる場面が少なくありません。
これは業界では本当によくある話です。
「伝えたつもり」と「聞いたつもり」のズレ
説明する側としては、確かに重要事項として伝えている。
一方でお客様の中では、その部分が印象に残っていない。
つまり、
-
業者は「伝えたつもり」
-
お客様は「聞いていないつもり」
というズレが起きているのです。
ここで一度、冷静に考えてみてください。
皆さんも、家や車、保険などの契約で
「説明は受けたはずなのに、あとから“そんな話あったっけ?”と思った経験」
一度はないでしょうか。
人は、自分に直接影響がある話であっても、
その場で重要性を感じなければ、記憶から抜け落ちてしまいます。
特に不動産契約は専門用語が多く、条文も長い。
「まあ大丈夫だろう」と無意識に処理してしまうことが起きやすいのです。
しかし、その小さな理解不足が、
後に大きな金銭トラブルへ発展することがあります。
典型例:原状回復の認識違い
例えば契約書に「原状回復義務あり」と書いてある場合。
私達業者側の理解は、
「借りる前の状態に戻す義務がある」という意味です。
ところが、お客様の中には
「掃除をして返せばいいのでは?」と受け止めている方もいます。
もしそのまま契約してしまえば、
退去時に
「解体費用が数百万円かかります」
という話になり、大きな摩擦が生まれます。
契約書自体に問題があったわけではありません。
問題は、解釈のズレを放置したことにあります。
私が大切にしている「目線のすり合わせ」
だからこそ私が常に意識しているのが、
「目線のすり合わせ」です。
これは特別な技術ではありません。
-
同じ言葉を、同じ意味で理解しているか
-
その条文が将来どう影響するのかを共有できているか
これを一つひとつ確認することです。
私は説明するとき、必ず
「つまり、こういうことです」と言い換えます。
法律用語を、実務の言葉に置き換える。
そして
「もしこうなった場合、どうなりますか?」
と逆質問を投げかけることもあります。
その場で違和感が出れば、
契約前に修正・交渉・確認ができます。
契約後では遅いのです。
契約書は“紙”ではなく、未来の設計図
契約書は、ただの書類ではありません。
その一枚一枚が、
これからの暮らしや事業運営を支える土台になります。
店舗であれば、
そこで働くスタッフの雇用、
お客様との関係、
地域とのつながり。
すべてが、その契約条件の上に成り立ちます。
だから私は、契約説明を「形式的な手続き」とは捉えていません。
そこにあるのは、
これから数年先を左右する重要な意思決定です。
経験者ほど、立ち止まってほしい
何度も契約を経験している方ほど、
「自分は分かっている」という前提が生まれます。
しかし、不動産契約は物件ごとに条件が異なります。
更新条件も違えば、
修繕責任の範囲も違う。
特約条項も、毎回変わります。
“前と同じだろう”は、
最も危険な思い込みです。
誠実な取引とは何か
私が目指しているのは、
トラブルを避けることだけではありません。
-
お互いが納得して契約すること
-
将来「こんなはずではなかった」と言わずに済むこと
-
そして最後に「ありがとう」と言ってもらえること
そのために、説明を繰り返し、
目線を合わせ、
曖昧な部分を残さない。
地味ですが、これが一番確実な方法です。
最後に
不動産契約の落とし穴は、
条文の難しさではありません。
「分かっているつもり」になることです。
これから契約を控えている方は、
ぜひ一度、自分に問いかけてみてください。
・本当に同じ景色を見られているか
・その条文が将来どう影響するか説明できるか
その確認ができれば、
契約は安心して前に進めます。
私は今日も、
一件一件の契約が「ありがとう」につながるよう、
目線を合わせる仕事を続けています。
皆さんは、契約のときに
どんな不安を感じますか。
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